冲方丁「ストームブリングワールド」(☆☆☆)

カルドセプトというゲームの世界観を用いている冲方丁氏のファンタジー小説
2003年出版のストームブリングワールドを加筆修正した新装版が出たので読んでみた。


ところで私は最近の冲方氏の作品よりは初期の頃の氏の作品の方が好きである。
初期作品の改訂版である本書を読んで、その思いを強くした。
私はこの改訂版よりも旧版の方を支持する。


特に本書の終盤、新しく加えた設定は蛇足であった。
最期に新設定の謎解きと最終決戦が同時に行われることで、話の焦点がぶれているのだ。
旧版では敵との絶体絶命の危機に陥る戦いに集中して入り込めたが、今回は視点があちらこちらに移るせいで熱気が失せてしまった。


だが古典的なボーイミーツガール小説としてはとても良い作品なのでお薦めである。
また冲方氏のことを知らない方には、初期の氏の書いた傑作「ドラゴンクエストⅡ 任侠鉄砲玉伝説」を読んでみてもらいたい。氏の実力がよく分かるはずである。
もっとも現在の冲方氏はこの文章が恥ずかしくて消したいそうだが、私はその過去の冲方氏の方を残したいのである。


【ストーリー】
絵を描くのが好きな明るい笑顔の少年リェロンはエルロイ公国の跡継ぎであったが、ある日「黒のセプター」なる者たちに襲撃され国を滅ぼされ、父と姉の犠牲によりかろうじて逃げ延びる。
彼は何もできなかった自分を呪い、笑顔を捨て、絵を描くことを止める.


神殿の町の英雄が娘アーティは父親を尊敬していたが、父親の自分に対する態度はどこかよそよそしかった。彼女は父親に振り向いてもらいたいばかりに重大な嘘をつく。
父親に認められるために、彼女は自分の弱さと訣別することを決意して泣くことを自らに禁じた。
だが、その父親は任務に出かけたまま行方知れずとなってしまう。


それから数年後、リェロンは無表情かつ苛烈に敵を倒す有能な戦士になり、アーティはエリートの通う学園の優秀なリーダーとして人望を集めていた。
苛酷な戦場で生きる青年と平和な学園生活を送る少女。
無関係な世界に生きる彼らであったが、ある日リェロンはその平和な学園への潜入を命じられる。
黒のセプターがその神殿とアーティにも手を伸ばそうとしていたからであり、青年は彼女の護衛を本人にさえ秘密裏で行うことになる。


かくして青年と少女は出会い、襲い来る困難に立ち向かう中で互いが捨てたものをもう一度取り戻していく。


新版


旧版