山本一郎「ネットビジネスの終わり」(☆☆☆)

ネットビジネスの終わり (Voice select)

ネットビジネスの終わり (Voice select)


ネットで有名な投資家、切り込み隊長こと山本一郎氏の著作。
製造業、アニメ産業、新聞/雑誌メディアの抱える問題について指摘している。


製造業については「良い物を作れば売れる」と妄信し、末端の市場の要望を満たせない物作り信仰を批判。
また扱う商品が総合的になり過ぎて勝負する分野を絞りきれず、製品開発から市場開拓まで全てに遅れをとる大企業の体質も批判する。


アニメ産業については、国が未来の重要産業と煽るが、その実態は異常に安く買いたたかれる人件費に依存しないと存続できないような赤字体質の業界であることを指摘。
アニメに関わる者は上から下まで誰も得せず、誰かが搾取できるほどの余裕さえない状態であり、年に数本出るヒット作に依存している。
もし作るなら実写ドラマの方がはるかに安い制作費でより高い利益を得られる。
金銭的に狭い市場なので少数の人間が重要なポストを独占しており、若手は伸びる機会も得られず歳を重ねてしまう。
そして海外のマンガ/アニメ市場はとても小さい。
国や投資家の期待は過剰なものでしかない。


新聞と出版については、その八方ふさがりの状況を指摘。
欧米の新聞や雑誌は大手さえも次々と潰れている。日本も数年後には危ないだろう。
あらゆる適切な経営再建の努力や増資も効果を成さない凄惨な事態になっている。
webに力を入れれば逆に売上げが下がり、人件費や経費の削減も焼け石に水
結局惰性で新聞を購入している層をつなぎ止めるだけが一番良い売上げ維持の手段になってしまう。

人が求めるのは専門的な情報と芸能スポーツなどの娯楽情報。しかし専門的な情報では新聞は専門家集団に太刀打ちできず、娯楽情報はネットで無料で手に入ってしまう。
情報は無料で手に入るという考え方を変えさせないといけない。
金はかかるが信頼できる取材ができるメディアが消えてしまえば、後には安いがいい加減な取材でデタラメな記事を書くメディアばかりが残ってしまう。


製造業に属している私としては耳の痛い言葉も多かった。
だが下っ端として使われるに過ぎない身分としては、本書で指摘された問題に対してできることは何もない。
結局自分の技術を磨くという「もの作り信仰」教団の信者のようなことしかできない。
いざと言うときは海外の企業への転職も考えないといけないかもしれない。


ちなみに本書の一部はネットでも閲覧できる。

http://voiceplus-php.jp/web_serialization/information_business/001/index.html
http://voiceplus-php.jp/web_serialization/information_business/002/index.html